新聞記事

大乗寺が紹介されている新聞記事が出ました。

印刷大手2強、「美」残す仕事 文化財保護に商機
朝日新聞8月5日
http://www.asahi.com/business/topics/economy/TKY200908050355.html

印刷大手2強が、文化財を保護するビジネスを拡大させている。先進的な印刷技術を使って、傷みやすい日本画をデジタル画像で再製したり、文化遺産の全容をデジタル映像に残したりするものだ。画像処理技術の進化に加え、文化財を災害から守ろうという機運が高まっていることが背景にある。

 兵庫県香美町大乗寺は3月、江戸時代の画家、円山応挙が描いた国指定重要文化財の「郭子儀(かくしぎ)図」など、客殿にある障壁画165面のうち64面をデジタル再製画に差し替えた。震災などに備え、原本を収蔵庫で保管するためだ。

 再製画を手がけたのは、印刷業界2強のひとつ、大日本印刷(DNP)。色の濃淡を工夫して、現物とそっくりに見せる美術作品集の印刷ノウハウを応用したのだ。

 たとえば和紙に描かれた絵なら、専門家に協力してもらい、和紙の白さや絵の色が最もよく保たれている部分を特定。そのうえで作品全体をスキャナーで読み取り、日に焼けたところが保存状態の良い部分と同じ色合いになるようコンピューター処理し、再製画を仕上げていく。

 再製画を印刷する素材の多様化も進んでいる。日本画は金箔(きんぱく)のほか、天井画や杉戸絵など木に描かれた作品も多く、そうした作品を保存したいという求めが多いからだ。

 DNPは、金箔に再製画を印刷できる特殊なインクや表面加工技術を実用化。くさりにくく紫外線があたっても色あせない板を素材メーカーと開発し、天井などに印刷しても長持ちするよう工夫した。再製画は通常の環境では、90年は退色しないという。

 DNPは99年に再製画ビジネスに参入。07年末までの受注は計12件にとどまっていたが、最近は寺院などからの注文が増え、08年に8件、今年も4件を請け負った。

 2年前に茶室の水墨画など計50面を再製画に差し替えた東京国立博物館の松嶋雅人特別展室長は、「少し離れれば専門家でも再製画と分からないほど精密」という。

 文化財をデジタル映像として保存する事業も、国内外に広がる。リード役は印刷業界首位を競う凸版印刷だ。

 同社の手法は、建造物などの全容を特殊なカメラで様々な角度から撮影。壁に描かれた絵などもスキャナーで読み取る。こうして集めた1万〜4万枚のデジタル画像をつないで映像化し、スクリーンを見ている人が実際に建物内にいるような臨場感を味わえるようにした。

 凸版印刷はこれまで江戸城金閣寺など、国内10の建造物・仏像のデジタル映像を制作。中国・故宮博物院から依頼を受け、世界遺産である紫禁城の内部を映像で残す共同事業も手がけている。08年度の問い合わせ件数は前年度の2倍の50件に達したという。

 映像はいろんな場所で公開でき、文化財の存在を広く知ってもらえる利点も大きい。凸版印刷は直営の印刷博物館(東京都文京区)など全国計5カ所で、映像を原則無料(入館料は必要)で公開中。今後も寺院や博物館などと連携し、映像の種類や上映場所を増やしていく方針だ。

■火災・地震…防災意識高まる

 文化財保護ビジネスが広がり始めた要因のひとつに、文化財の焼失が相次いでいることがあげられる。

 文化庁によると、国指定重要文化財(建造物)の火災は01〜06年度はゼロだったが、07年度は1件、08年度は旧住友家俣野別邸(横浜市)の全焼など3件も発生した。文化庁は今年4月、全国約1万1千件の重要文化財保有する寺院や博物館などに、防災体制の点検を求めている。

 また、政府の中央防災会議の試算では、近畿・中部圏で想定される内陸直下型地震が起きれば、関西を中心に580件の重要文化財が倒壊したり、延焼したりする危険があるという。

 こうした難を逃れるため、再製画をつくって原本を厳重に保存したり、建造物の公開期間を短縮してデジタル映像で紹介したりするケースが増えている。ただ、高度な印刷技術や綿密な調査が必要なため、大日本印刷のデジタル再製画は一面で数百万円かかるケースもある。凸版印刷のデジタル映像も数千万円程度と高額だ。文化財保護ビジネスの普及には、印刷業界のコストダウンが課題になる。(寺西和男)